2023/06/17 16:39
その土手には今、たくさんの野いちごがなっています。
そこへ、ともだちのスズメがやって来て
「そのいちごでジャムを作ってもらえないかしら?」
と、頼みました。
野ねずみは、「スズメさんの頼みなら、よろこんでつくるわよ!」と、
野いちごの土手へ行くと、せっせと、まるくて赤い宝石のような野いちごを
1つ1つ摘んでまわったのです。
野ねずみは、大喜びで自分の家へとかけだしました。
と、その時!なんと言うことでしょう。
あまりに喜んでいた野ねずみは、足もとの小石に気がつかないで
つまずいて、転んでしまったのです。
ザルの中の野いちごが、バラバラと転がりました。
土手を転がり、その先の坂道も転がって、
赤い丸い宝石がコロコロと坂道を転がっていきます。
「まぁ大変!あらあら大変!」野ねずみは途方に暮れてしまいました。
実は、それを見ていたアリがいました。
アリは、とっさに歯の間から不思議な音を出して、アリ笛を吹きました。
人の耳には、聞こえないすーっと抜ける風のような不思議な音です。
その音は言葉になっていました。
「やぁ、仲間たち、イチゴが降ってくるぞ!野いちごがコロコロ降ってくるぞ!
野ねずみさんの、だいじないちごを、どうか拾っておくれ!」
野いちごがコロコロと転がっていく先には、
竹やぶのアリたちが住んでいました。
そして、アリたちは、しっかりとアリ笛の言葉を聴き取りました。
「 大変だ!みんな集まれ!いちごが降ってくるぞ。
野ねずみさんのいちごが、コロコロ降ってくるそうだ!
みんなでそれを受け止めるんだ」
そういった瞬間、野いちごがコロコロと
竹やぶに転がって来たのです。
「 そら、来た!そら、来た!いちごがコロコロ降ってきた!」
アリたちは歌うように掛け声をかけ、
がっちり野いちごを受け止めて、
それをリレーしながら、エッサエッサと運びました。
アリたちが運んでくれる様子は、まるでイチゴが
坂道を逆流して登ってくるように見えました。
野ねずみは、とてもとても感激しながら
アリたちに何度もお礼を言いました。
「 アリのみなさん、この野いちご、
スズメさんに頼まれてジャムにするんですよ。
きっとおいしいジャムになりますから、
出来上がったら持ってきますよ。」
アリたちはお礼にいくつか野いちごをもらって
まだ食べたことのないジャムというものを楽しみにしながら、
竹やぶへと帰っていきました。
さあ、野ねずみは今度は慎重に、
ザルいっぱいの野いちごを、だいじにかかえて持ちかえり、
小さなかまどに、小さな鍋をかけて、イチゴのジャムを作りました。
台所いっぱいに甘酸っぱいような、それはそれはおいしそうないい匂いがして、
いよいよジャムが出来上がると野ねずみは、スズメをよんで、
できたてのジャム振る舞いました。
スズメは、とまり木のような、特製の椅子にチョンと止まって、
特製のおちょこに盛り付けられた、きらきらひかるジャムを、
コツン、コツンとつつきながら、おいしそうに食べました。
「なんておいしいものを作ってくれたんでしょう!
こんなにおいしいものは初めてよ!今度はわたしが秋になったら
お礼にたくさんクルミを持ってきますからね。楽しみにしていてね。」
スズメは胸いっぱいに喜んで言いました。
それから、野ねずみは、あのお世話になったアリたちのために、
笹の葉っぱで一つ一つ小さな器を作り、ジャムを盛り付けて、
お盆に乗せて竹やぶへと持っていきました。
大きな切り株があったので、その上にお盆を乗っけてから、
「 アリのみなさん!この間は本当に助かりましたよ。
約束のジャムを持ってきましたよ。どうぞ食べてくださいね。」と、
できる限りに叫びました。
アリたちは、待ってましたと、あちらこちらから集まってきて、
初めて食べる野いちごのジャムに、キラキラ目を丸くしながら
喜んで食べました。
「 こんなにおいしいものが食べられるなら、毎年、野いちご転がしておくれよ。
そしたらまたみんなではりきって、エッサエッサと運んでもっていくからさ!」
アリの誰かがうれしそうに、そんなおかしいことを言いました。
それを聞いて、野ねずみは笑いながら、「 わざわざ転がさなくても、
今度からは毎年ジャムを持って遊びに来ますよ。」と言ったので、
そこにいたみんなはアハハ、アハハと大笑いしました。
通りすがりの5月の風も、一緒になってアハハと笑っているようでした。